「“ももかん”って大した怪我やないやん、打撲やろ。明日もプレーできるやろ。」なんて思っていませんか?
「“ももかん”って大した怪我やないやん、打撲やろ。明日もプレーできるやろ。」なんて思っていませんか?
『“ももかん(筋挫傷)”は打撲だから大した怪我ではない』
というのが、監督、コーチ、選手自身、チームメート、ご両親等多くの方の共通認識だと思います。
実際ほとんどのケースは、痛みをこらえてプレーはできるし、
もし当日のプレーが厳しくても最長で1週間調整すれば試合レベルにもどれるものが多いのは事実です。
しかし時には重症の“ももかん”患者さんが当院を紹介受診されます。
選手やご両親が正しい知識をお持ちで、もっと早く積極的な治療ができれば回復が早いのに・・・と悔しく思います。
もし私が、病院での診療をメインとしてスポーツの仕事をしていたなら、
この“ももかん”にはそれほどの要度は感じなかったでしょう。
しかしJリーグ柏レイソル4年間、川崎フロンターレ8年間の他、
日本体育大学アメリカンフットボール部、X2リーグ三和ラークヒルズのチームドクターを務めてきたなかで、
靭帯損傷は当たり前として、さらに肉離れや打撲からの復帰にも関与を求められる立場にありました。
負傷した選手が「なぜ復帰できないのか?」ということを頻繁に聞かれ、
明確な回答を求められる立場にあったがゆえに、
どういう状態だと復帰が早い・遅いという判断指針を作ったり、
どんな治療をかけるとただ保存的にみるよりも早く回復方向にリードできるかを深く吟味するようになりました。
そんな私からの・・・
【受傷直後の処置のお願い】
受傷直後からプレーができない場合にはベンチに下がると思います。
アイシングはしていただけると思いますが、大事なのは「血が溜まるスペースを与えない」ことです。
そのためには膝を痛みが許せる範囲で最大に曲げた状態にして(図1)包帯で巻いて膝屈曲位を保ってください。
だんだん痛みが強くなり我慢できないくらいになります。
その場合は、膝は伸ばしてもいいので患部を圧迫してふとももを包帯で巻き圧迫をしてください。
安静にしていても耐え難い痛みがある場合には急性コンパートメント症候群の可能性があり、
筋膜切開が必要な場合もあるので、救急病院に搬送してください。
【重症度の判断】
(図2)は膝関節の可動域の程度でみた重症度と、MRIでみた重症度のイメージを載せています。
痛みが強いと感じたら医療機関での適切な評価をうけるべきです。
重症度は膝の可動域がどの程度かで分類することができます。
私はこの可動域120度が最低ラインとして治療やリハビリを組んでいます。
また客観的にはMRI(痛みが強い場合)を撮影して、出血がどの筋肉にあるかで重症度分類ができます。
さらに痛みが強い場合では血腫により圧力が高まり激痛をきたし、筋膜切開を要することがあります。
その場合は筋内圧を測定する必要があります。
【翌日からのリハビリの重要性】
“ももかん”は、ぜひとも翌日から膝の可動訓練をしてください。
今回はデータとしては掲載していませんが、私の経験上、順調に良くなる“ももかん”はどんどん可動域が回復します。
回復が難しい症例では消炎鎮痛剤の内服、アイシング、リハビリの努力をしても一向に進展しません。
当たり前のことですが、大事なことは経過良好群か経過不良群なのかを早い段階で見極めることです。
(今回は血栓溶解治療の話はいれていません、ご了承を)
私の保存治療の段階としては
①消炎鎮痛剤の内服+アイシング+可動域訓練リハビリ
②麻酔科の助けをかりての可動域訓練
③麻酔下での血腫除去+授動術 です。
経過良好群は内服治療+アイシングで日に日に改善します。
たとえ来院時にうつぶせの膝ストレッチで45度程度(重症)しか曲げられない選手でも、
良好群に入る選手は3週間目までには120度を超えてきます。
ですので、痛くて辛いかもしれませんが、
鎮痛剤の力を借りてでも翌日から最大限のリハビリ努力をしてもらいます。
そして可動域の改善具合を常にモニタリングし、
経過不良群と判断したら、いたずらに長くひっぱることなく、先ほどの保存治療の段階を上げていきます。
“ももかん”は、ぜひとも受傷翌日から可動域訓練を頑張ってください。
“ももかん”を受傷すると一番影響をうけるのが膝関節の動きの制限です。
『“ももかん”くらい放っておけばそのうち回復するやろ。』
と思っている人が多いと思いますが、これは間違いです。
初期にしっかりMRIなどで評価をうけて軽症であると判断されているなら放っておいてもいいですが、
診察や画像検査なしに見込みだけでいると大変なことになります。
不適切な治療でみていたら3ヶ月くらいかかる症例だってあるんです。
【リハビリが順調かどうかの判断】
診断にもリハビリの経過にも使用していただきたい指標は「うつ伏せでの膝屈曲角度」です。(図3)
スポーツ選手にとっては早期復帰が最重要課題ですが、
たかが“ももかん”とたかをくくると実は非常に重症度が高く復帰に長期を要することもあり、足をすくわれます。
選手の痛みの程度をよくみて、痛みが強ければ診察をしてもらい、
早い段階から膝可動域訓練を開始、
可動域が順調に回復してこない症例では血腫除去の手術も必要になります。
積極的なリハビリをしながら経過をみていくことが大事です。
【私のスポーツ整形外科医の歴史で一番印象に残っている“ももかん”】
もう12年前の話になります。
当時16歳、男子。
プレー中に“ももかん”をくらい、痛みが強すぎて病院を受診し、担当医の判断で安静入院。
痛みが強いためリハビリなく安静で1ケ月みていたそうです。
その後外来リハビリを開始したけれど、本人としては動きが全く回復しないということで受傷から6週目で初診された選手がいます。
(図4)
紙面の関係で結果だけ報告しますと
麻酔をしても膝が45度までしか曲げられず、関節授動術を数回しています。
普通は2回ほど授動術をして回復が少なければそれ以上はしないと思います。
今回は本人の希望と優秀なドクターのご協力により、幸運にも膝屈曲140度程度曲がるようになったので
選手としてはプレーに復帰していますが、大変な道のりでした。
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