【肉離れ発生部位の種目特性(陸上競技)】種目による肉離れ発生部位の違い
【肉離れ発生部位の種目特性(陸上競技)】
スポーツにおいては、種目によってそれぞれ特有の動作があります。
野球、サッカー、ラグビー、バスケットボール、バレーボール。
陸上競技では短距離、中距離、長距離、跳躍競技、マラソン。
それぞれの競技を頭の中で想像すると、それぞれ動きに特徴があって肉離れが起きやすい部位が競技によって違うというのも納得いただけると思います。
私は関東労災病院スポーツ整形外科で勤務する傍ら、Jリーグのチームドクターも兼務していましたが、実はさらに社会人枠として日本体育大学大学院健康科学スポーツ医学研究科に通っていました。
そこでは、スポーツ損傷としての筋損傷を包括的に研究(主として夕方から夜間の研究)して体育学博士(平成15年)を取得しました。
その際、スポーツにおける肉離れの疫学的検討として関東労災病院スポーツ整形外科19年間での肉離れ症例1348例を比較検討し、色々分かったことがあります。
その論文の中から種目特性の一部をご紹介します。
《損傷部位別発生数》
※この表から、肉離れが下肢に集中していることがわかります。
今回は陸上競技に限定して種目特性について書きますが
次回から他の競技も連載します。
陸上の短距離、中距離、長距離は純粋に『走る』という動作に特化しており、主に距離による差だけです。
そして跳躍競技は短距離を『走り』『飛ぶ』という動作の組み合わせです。
他種目に比べて陸上競技は、シンプルな動作から成り立つ運動なので
陸上で肉離れを起こしやすい部位を調べることで
動作によってどの筋肉に負荷がかかり損傷するかが捉えやすいと思います。
★調査の限界★
母数は、関東労災病院スポーツ整形外科を受診された選手です。
肉離れになっても受診しない選手も相当数いますので
肉離れ発生部位の種目特性を完璧には反映していない可能性はあります。
しかし1348例という膨大な症例数を検討することによって、
より正確な種目特性に迫れたのではないかと思います。
《陸上競技の種目別損傷筋割合》
種目別にみてゆきます
短距離、中距離、長距離
各種目平均年齢は、17歳、17歳、22.8歳です。
ハムストリングを損傷しやすいのは短距離、中距離、長距離の順で
距離が短くスピードが速い順になっています。
腓腹筋を損傷しやすいのはその逆で距離が長くなるほど増加する傾向にあります。
跳躍競技
跳躍競技は、助走のために短距離をスピードで走り(ハムストリング)を使い
ジャンプ(大腿四頭筋)を使うので損傷筋の割合もハムストリング損傷の割合と
大腿四頭筋損傷の割合は同程度になっています。
長距離、マラソン、ジョギング愛好家の比較
各種目平均年齢は22歳、37歳、42歳です。
走る距離が長いほど腓腹筋損傷が増えることはすでに報告しました。
長距離群は平均年齢が22歳であり、マラソン・ジョギングに比べて競技性が高い群です。
競技性が高いということは、スピードを競うということでもあり、スピードが速くなるほどハムストリングや大腿四頭筋の割合が増加しています。
マラソン群とジョギング愛好家群では腓腹筋が目立って割合が増加しています。
追加のグラフとして
別に損傷する筋肉の割合を算出しています。
特に注目していただきたいのは腓腹筋(黒色)の棒線グラフです。
非常にみにくいので恐縮ですが、
黒い部分は30歳以降どんどん割合が増加しています。
腓腹筋に関しては『競技距離が長い』ことに加え『年齢が30歳以降』になると損傷しやすいといえます。
お母さんのための肉離れ好発部位マップを示します。
ハムストリング肉離れは短距離でもっとも多く、
次いで中長距離、跳躍競技で発生しています。
大腿四頭筋は跳躍競技で最多で、次いで短距離、長距離で発生しています。
腓腹筋損傷はマラソンで最多、
次いで長距離、中距離、短距離の順に発生しています。
是非今日からこの写真を参考に、入念にストレッチをして、
違和感やコリや痛みが好発部位にないかチェックして
早期発見に役立たせてください。
スポーツ損傷としての肉離れの疫学的検討(原著論文)
武田寧(関東労災病院)ら
日本臨床スポーツ医学会誌(1346-4159)9巻1号 Page82-89(2001.02)